『 霧の倫敦・花の巴里 ― (2) ― 』
「 グレート〜〜〜 !! おい ホンモノのグレート・ ブリテンなのかい?? 」
楽屋部屋から飛び出しきた男性は グレートにがばっと抱き付いてきた。
「 お〜〜 これは熱烈な歓迎を〜〜 嬉しいよ
こんな野郎のことなど もうとっくに忘却という川に流してしまったと思っていたからなあ
。」
「 バカヤロウ〜〜 このジョンはそんな恩知らずじゃねえぞ〜〜
いやあ〜〜〜 いったいどこに雲隠れしていやがったんだ〜〜 」
「 すまん。 今日 来たことで今までの無沙汰を帳消しにしてくれ 」
「 また 来い。 いやいや また俺たちと 」
「 あは 老兵は引っ込んでいた方がよかろうさ。 」
「 そんなことはない! どうだったかね、久々に客席から観た感想は 」
「 ― なあ。 その前に教えてくれ。 なにかあったのかね? 」
グレートは単刀直入に尋ねた。
演出家のジョン氏は 一瞬びくっとし、慌てて笑顔に戻ったが ―
「 いや なに・・・。 !
いいや !
グレート! 頼みがある!
」
彼は 真剣な表情になると ぐっとグレートの手を握った。
「 なんでも言ってくれ。 俺にできることがあるのなら 」
「 ある! いや お前にしかできないんだ ! 」
「 話してくれ。 あ ― 彼女のことは気にしないでいい。 」
グレートは入口にいる彼女の方をちらり、と見た。
「 はい。 今日の舞台からいただきました感動に感謝したくて伺いました。
わたしはこれで失礼いたしますわ。 」
フランソワーズはにっこり微笑み会釈をした。
「 あ いや〜〜〜 お美しいレディ〜〜 そう言ってくださって本当にありがとうございます!
おい〜〜 グレート〜〜〜 お前ってヤツは相変わらず 〜〜 」
「 ははは ・・・ 彼女は違う。 現在の俺の信頼できる仲間の一人 さ。 」
「 そうですわ。 どうぞ今晩は懐かしいお話で盛り上がってくださいね。
ミスタ・グレート じゃあわたしはこれで失礼しますね。
ミスタ・ジョン 今日は本当にありがとうございました。 」
フランソワーズは笑顔のまま ジョンにも握手を求めた。
「 え そ そんな ・・・ レデイ〜〜 」
演出家氏はあわあわしている。
「 あ〜〜 いや、 ちょっと待っていてくれるかな。 マドモアゼル? 」
「 はい? 」
「 いや 時間も時間だし一人では物騒だ。 迎えを呼ぶよ。 」
「 迎え?? 」
「 ああ。 ― ハロウ? ジョー ? 」
グレートはポケットからスマホをだすと さっと連絡をした。
「 あ〜〜 ジョーかい? 」
「 グレート!?? どこから?? 」
「 ちょいと所用ができてな。 マドモアゼルを迎えにきてくれ 。 」
「 へ?? え・・・っとその〜〜劇場へ? 」
「 うむ。 車で、だ。 お前さん 運転できるだろ?
そうさな … お前さん ・・・ お抱え運転手だ。 」
「 へ?? な なに それ? 」
「 アルベルトにでも聞いてくれ。 頼んだぞ 」
「 あ あ〜〜〜 劇場、どこだっけ? 」
「 う〜〜〜 今から GPS情報つきで脳波通信で送るから!
しっかり受信しろよ。 じゃ な 」
「 ひえ? 〜〜〜〜〜 うわ〜〜〜 」
「 すぐに迎えにくるそうだ。 しばしこちらで待っていておくれ。 」
「 わかりましたわ。 ・・・ ああ 楽屋っていいわねえ ・・・ 」
「 ふふふ ・・・ それでは ジョン? 簡潔にして必要詳細な情報をくれ。 」
「 わ わかった ― 実は ・・・ 」
「 ふむ? 」
初老の旧友同士は 楽屋廊下の隅でボソボソ立ち話を始めた。
フランソワーズは彼らには背を向け 終演後のわいわいしている楽屋の雰囲気を
楽しんでいた。
お疲れ様〜〜〜 明日もよろしく〜〜〜 おい 寝坊するなよ〜〜〜
あそこトチるな〜〜 噛んでなんかいないわよっ じゃね〜〜〜
大部屋からは若い駆けだしと思われる役者たちが ばらばらと帰ってゆく。
ほんのりソープの香やら ドーランの匂いもして ― 独特の雰囲気だ。
ああ ・・・ いいなあ ・・・・
また < 内側の人 > になりたいなあ ・・・
フランソワーズは遠い眼差しで眺めていた。
「 ! ― 了解した。 で 相手は。 今夜の女優か 」
一際 高くグレートの声がして 彼女は思わず振り向いてしまった。
男性たちはそんなことにはお構いなし、というか気づいてもいない。
「 うむ。 ローザ。
… ソフィ−
の娘だ。 」
「 ・・・ なんだって ! 」
「 余計なこと 言わないでください ミスタ ジョン! 」
彼らの前に 燃えるような赤毛の女優が 立っていた。
「 ― アルベルト! おかかえうんてんしゅ ってなに??? 」
ジョーは 脳波通信混じり?の電話を切ると声をあげた。
「 なんだ 騒々しいヤツだな。 グレートからか? 」
「 そうなんだけど。 おかかえうんてんしゅ になって迎えに来てくれって・・・
劇場までなんだけど。 それって なにさ? 」
「 ふん ・・ 上流階級の家のな 住みこみの専属運転手 さ。 」
「 へえ ・・・ そんなヒト達がいるんだ? 」
「 クルマがあれば運転手は必要だろ。 お前 クルマ借りてこい。 」
「 え ・・・ え〜とぉ 普通のレンタカーでいいのかな 」
「 あ〜〜 ・・・いい いい。 俺が行ってくる。
ついでにそれっぽい服も調達してくるから お前すぐに出られるように道でも調べとけ。 」
「 そんなの ナヴィがやってくれるよ。 ぼくも一緒にゆく!
おかかえうんてんしゅ ってどんな感じな仕事なのか説明してクダサイ。 」
「 ふん 素直だな。 」
「 ・・・ フラン 迎えに行くんだもん、彼女に恥かかせらんないし 」
「 ほっほ〜〜 惚れた弱みやね〜〜 おいしい夜食 用意しとくよって
安生きばってや〜〜 」
張大人が ひょい、と厨房から顔を出した。
「 ウン! ブタまんがいいな〜〜 」
「 ジョー、行くぞ! 」
「 あ 待って! 」
ジョーはばたばた・・・・アルベルトを追っていった。
半時間後 ―
シュ −−−。 リムジンが劇場の駐車場に滑らかに止まった。
制帽を被った青年が ぎくしゃくしつつ楽屋口に歩いてゆく。
「 あ … お待たせいたしました お嬢さま 」
楽屋の前で運転手クンが ぺこり、とアタマを下げた。
「 あ ・・・ら ・・・ ご苦労さま。 じゃあ わたし、戻りますね。 」
「 うむ。 吾輩は今晩 帰れないから ・・・ 」
「 あら あんまり飲みすぎないでくださいね? 」
「 いやいや! 我輩は 今夜は リハだ。 台詞の確認と 合わせをせにゃならん。 」
「 え??? リハ・・・って・・?? 」
「 レディ ・・・ ちょっとした事故がありまして。 我々の主演男優が
明日の千秋楽に出演不可能になってしまったのです。 」
「 まあ ・・・ それは大変 ・・・ アンダースタディ ( 代役 ) は? 」
「 それが 」
「 ふふふ あの膨大な台詞が 完全にアタマに入っているのは この世では
今日の主演のアイツと我輩だけ さ 」
「 グレート! あなたが 主演を?? 」
「 左様 マドモアゼル 」
「 明日の ― 千秋楽の舞台を務めるというの? 」
「 ご明察。 」
グレートは慇懃にお辞儀をした。
「 ― よい舞台を! 勿論伺いますわ。 」
「 これは忝い。 あ〜〜〜 ジョン? チケットはまだあるかな
」
「 どうぞいらしてください、レディ。 招待席を用意しておきます。 」
「 いえ ― 立ち見席で結構ですわ。 その分 一般の観客の方に回してください。
グレート。 < 皆で > 来ます。 」
「 フランソワーズ ・・・ ありがとう! 」
「 心から応援してるわ。 頑張って! 」
「 ありがとうございます。 」
「 それでは失礼いたしますね。 」
フランソワーズはちらり、と運転手クンの方に視線を向けた。
「 あ 〜〜〜 ・・・ おじょうさま どうぞ。 」
「 ありがとう 」
彼女は静かに踵を返した ― その時
「 待って。
あなた … 彼の なに。
愛人? 」
先ほどの赤毛の女優が口を開いた。
彼女は楽屋の奥で じっと彼らのやり取りを聞いていたのだ。
「 ローザ! 」
演出家氏は 慌てて彼女を制止したがフランソワーズは静かに振り向いた。
「 いいえ 違います。 」
「 まさか 娘
… ? 」
「 わたしは ミスタ グレートの 」
「 ローザ。」
グレートがしずかに二人の間に入った。
「 彼女は友人だ。 とても大切な な。 」
「 友人? 便利な言葉ね。 」
「 仲間 と言ったほうが正しい。 そして 我輩の娘は ただ一人きり だ。 」
「 ― え? 」
「 では 皆さま ― よい舞台を! 」
フランソワーズは それ以上は聞かずに楽屋を後にした。
お嬢様の後を 運転手クンが慌てて追い掛けていった。
「 ただいま。 大人〜〜 厨房つかってもいい? 」
ドルフィン号に帰るなり フランソワーズはキッチンに直行した。
「 おかえりなはい。 ・・・ 嬢はん、どないしはってん? 」
「 夜食用のね サンドイッチを作りたいの。 できるだけたくさん ね 」
「 ほへ? あんさんがあがりはるのんですか 」
「 いいえ、 あの ・・・差し入れなの。 グレートとお仲間達に 」
「 なんだよ〜〜〜 フラン〜〜〜 差し入れってどこによ 」
赤毛ののっぽがずいと割り込んできた。
「 フラン〜〜〜 ぼくも 手つだうッてば〜〜 」
「 ジョー。 クルマは 」
「 うん ちゃんと返してきた。 ね 手伝うよ。 」
「 グレートはん どないしはってん? 」
「 彼は 明日の千秋楽の舞台、主演を務めることになったの。
それで今晩はリハーサルなのよ。 」
「 ・・・ そりゃ 難儀やなあ 」
「 だからせめて差し入れを持ってゆこうと思って。 」
「 ふ〜〜ん? 大将 なんだっていきなりそんなこと、引き受けたんだよ〜?
ムカシの仲間?? ・・・ ど〜ゆ〜仲間かよ〜〜 」
好奇心丸出し・・・な赤毛を見つめフランソワーズは静かに言った。
「 彼の個人的な事情は知らないし興味もないわ。
わたしはただ 舞台人としての大勝負に 挑む 往年の名優 グレート・ブリテン を応援したいだけよ。 」
「 ひぇ ・・・ 」
「
ほっほ あんさんの心意気
買うたで! 」
ずい、と料理人が赤毛を押しのけた。
「 ワテも腕によりかけて 上等な さんどいっち 作りますさかい・・・
おらおら〜
あんさんらは買い出しや! ジョーはんも一緒に行ってや〜
今リストつくりますよってとっとと行ってきなはれや 〜 」
「
へん! オレらにゃ 加速装置ってもんがあるんだぜぇ〜 」
「 こ これを! この特製袋に 食料を入れてかえってこい! 」
ギルモア博士が奥から駆けだしてきた。
「 話は聞いたよ。 なに・・・ グレートがワシにもちゃんと電話を入れてくれた。 」
「 俺も聞いた。 応援するぞ 」
「 博士 ・・・ アルベルト〜〜 ありがとう! 」
「 いやいや ・・・ほれ お前たち。 加速する前に買い物をこの袋に入れるのじゃ。
耐熱用の特別性じゃ、なんとか無事にもち帰れるじゃろう。 」
「 わ〜〜〜 ありがとう博士〜〜〜 ジェット〜〜〜 じゃ 行こうよ! 」
「 ほい来た〜〜〜 」
加速装置付きの二人は ドタバタと出ていった。
「 ふん ・・・ 相変わらず騒々しいヤツらだな 」
「 アルベルト。 明日 劇場周辺の警戒を頼む。 」
「 博士、なにか ・・・ あの大将が? 」
「 うむ。 どうもよからぬ輩が画策しておるらしい。
その主演男優の事故というのも 裏にキナ臭い奴らがいるかもしれん、とな。 」
「 ふうん? 俳優同士の揉め事とかじゃないんですか 」
ピュンマも奥から出てきた。
「 主役をめぐる争い か? いやいやそのようなことではないらしい。
今回の主役は周囲も認める実力派で評判上々〜〜 のようじゃよ。 」
「 へえ ・・・ それじゃ人気の公演なんですね? 」
「 かなり話題になっておるらしいよ。 」
「 人も集まる、マスコミもある程度来る・・・っことで 」
「 ああ。 じゃから警戒を頼む。 」
「 了解。 全員で当たります。 」
「 頼む。 あ・・・ フランソワーズは 」
「 彼女は 」
「 勿論わたしもゆきます。 探索はわたしの専門だわ。 」
「 頼む。 」
「 それじゃ − 食材がきたら サンドイッチ作成大作戦 開始よ!
皆〜〜〜 手つだって! 」
「 へいへい ・・・・ 」
「 はいな。 あんさんら 手ぇしっかり洗って! 厨房に集合や。 」
「 俺は ― この手だから遠慮しとく。 」
「 アルベルトはん? 出来ることはた〜〜んとありまっせえ ほら はよ はよ〜〜 」
「 うっひゃあ〜〜 」
「 うむ ・・・ 俺もできること あるか 」
「 当たり前や〜〜 はよ はよ〜〜 」
サイボーグ達は 料理人に急かされ狭いキッチンに集められていった。
― 一時間後 ・・・
「 ふう〜〜 なんとか・・・カタチになりましたナ 」
張々湖は 厨房をみまわし、ほっと一息ついた。
キッチンには さっくり包まれたサンドイッチが 山! になっている。
「 ひえ〜〜〜 これいっか〜〜 」
「 待て。 数えるから。 」
「 あ じゃあぼく 届けにゆく準備するね 」
ジョーがエプロンを外し手を洗い始めた。
「 あ わたしも ・・・ 」
「 フラン? お嬢様は おやすみの時間です。
ここはおかかえうんてんしゅ ・ ジョー
にお任せください 」
ジョーはぺこり、とお辞儀をした。
「 え・・・ 」
「 そうだ。 良家の子女が出歩く時間じゃない。
ジョー ・・・ フランからってことで 」
「 ウン。 ちゃんとあの服と帽子でゆくよ。 お嬢様からお預かりしました って 」
「 上出来だ。 」
「 俺 途中までもっていってやる。 はは お嬢さんの下僕ってことだ。 」
ジェロニモ Jr がに・・っと笑った。
「 ありがとう! それじゃ お嬢さま いってまいります。 」
ぺこり とお辞儀すると ジョーはまたまた運転手の制服に着替え 夜の街に出ていった。
「 ほっほ〜〜 そな 頼みまっせ〜〜 あとはここを片づけて 」
「 な〜〜〜 オレ〜〜〜 腹減って〜〜〜 」
「 は! 意地汚いヤツだな 」
「 んなこと言ったってよ〜〜〜 青少年は腹 減るんだ〜〜 」
「 ほいほい・・・ ほんなら 残った具ぅ、食べなはれや 」
「 ひゃっほ〜〜〜〜 ・・・・ ウマ〜〜〜〜 これ ロースト・ビーフの
切れっぱし〜〜 むぐぐぐ・・・これは厚切りハム〜〜 こっちは うひゃひゃ〜〜
ピーナツばたー〜〜〜〜 」
赤毛ののっぽは 残り物の片づけに集中し始めた。
「 ったくなあ 」
「 ええやん、無駄にならへんよって。 さ〜〜〜 皆はん お疲れさん〜〜
応援おおきに〜 さ オイシイこおひい でん 淹れまっせ〜〜 」
「 お それは俺にやらせてくれ。 」
「 ほ? 専門家やな〜 ほな お願いしまっせ 」
「 諸君 ・・・ ほんの一杯じゃが 極上のウィスキーがあるぞ。 」
「 博士〜〜〜 そうこなくっちゃ! 」
「 わたし ・・・ やっぱり気になるので・・ ジョーを待ちますね
コーヒーはジョーと一緒にいただきます。 ごめんなさいね、アルベルト。 」
フランソワーズは ちょっと会釈するとコクピットに戻っていった。
「 ・・・ あは。 やっぱ〜〜 」
「 ふん ・・・だな 」
「 相思相愛 いいことだ。 」
「 うむ うむ ・・・ 」
「 ?? はへ??? そ〜せ〜じ もあるのか?? 」
「 は! お前は飲み食いに集中していろ。 」
「 ふふ ・・・ あ〜〜 あのさ。 皆 飲みすぎない方がいいかもしれないよ? 」
ウィスキー・グラスを舐め舐め ピュンマがモニターを眺めている。
「 やはりなにかキナ臭いことでもあるのか 」
「 う〜〜ん ・・・この付近の通信をハッキングしていたんだけど。
博士の指摘通りさ、ちょいと気になるの、拾っちゃってさ。 」
「 ・・・ ヤツらか。 」
「 そのへんは正確にはわからないんだ。 いわゆるソフト・ターゲットに
劇場とか狙っている感じさ。 迷惑だよな〜〜 」
「 ふん? 」
「 それに どうもねえ・・・ 例の主演男優の < 事故 > だけど。
< 故意 > だね。 通り魔的犯行を装ってるけど ― グレートの推察はビンゴ!
ってとこだね。」
「 ふん ・・・・ 裏ではヤツらに通じているかもしれんな。 」
「 うむ。 諸君、連日すまんが 」
「 警戒は任せてください。 我々にはなんてことないです。
ジョーたちが帰ってきたらミーテイングだ。 」
「 あ〜 フランソワーズは明日の舞台、見たいんじゃないかな 」
「 ああ。 彼女は 」
「 わたしも行きます。 先ほども言いましたけど。ナヴィはわたしの仕事 です。」
いつのまにか フランソワーズが戻ってきていた。
「 いいのか? 」
「 わたし、 皆の仲間よ? グレートの舞台を護るの。 」
「 よし。 じゃ俺らだけでも打合せだ。 」
彼らは コーヒーやらウィスキー・グラスを片寄せた。
「 なんと〜〜〜 これを吾輩に? 」
劇場のリハーサル室で グレートが目をまん丸にしている。
「 ウン。 あ ・・・ はい。 これはお嬢さまからのお届けものです。
どうぞ皆さまで召しあがってください とのことです。 」
ジョーは運転手の制帽をとり ぺこり、とお辞儀をした。
「 はん? ・・・ あ〜 そうか これは忝い〜〜〜 」
「 お嬢様にお伝えします。 では ワタシはこれで ・・・」
「 ・・・ 」
後ろで ジェロニモ Jr が笑いをかみ殺しつつ一緒にアタマを下げている。
「 あ〜〜 ・・・ すまんね〜 」
「 グレート? ご友人かい。 」
部屋の奥から 演出家氏が出てきた。
「 ジョン。 いや実は 」
トタトタトタ 〜〜〜〜 コツコツコツ ・・
軽い足音が数人、近づいてきた。
「 おはよ〜〜 ございます〜〜〜 リハ 間にあいました? 」
「 おはよ〜で〜〜す よろしくお願いしま〜す〜〜 」
「 ! き 君たち〜〜〜 」
この舞台に出演している若手の俳優たちが ぱらぱらと駆け付けてきた。
ほんの数時間前 本場が終わったばかり、というのに・・・
「 聞きました! さあ 時間 惜しいですよ、すぐ始めましょう! 」
「 僕も。 ミスタ・ブリテンと共演できるなんて〜〜 スゴイ! 」
「 おう ・・・ お前ら ・・・ わざわざ戻ってきてくれたのか・・・
あ ありがとう〜〜〜 」
演出家氏は もう涙声になっている。
「 ミスタ・ジョン? 泣いてヒマ ないですよ? さあ 始めようよ 」
「 オッケ〜〜 あ いない役は代役するわ。 」
「 ― 諸君 ・・・ ! ありがとう ありがとう〜〜〜 ! 」
グレートは 若い俳優たちに向かって深々とアタマを下げた。
「 < 仕事 > を始める前に。 まずは腹ごしらえしよう!
諸君〜〜 差し入れだ! どんどん食べてくれ! 」
「 ど どうぞ 」
ジョー いや 運転手クンが大荷物を広げ始めた。
「 わあ〜〜〜〜 お 〜〜〜〜 !! 」
俳優たちは てんでにサンドイッチに手を伸ばした。
「 さ こっちへ ・・・ 諸君らも付き合ってくれたまえ。 」
グレートは ジョーとジェロニモを舞台の袖に案内した。
照明は落ちていて、ほの暗い灯があるだけだ。
「 あ ぼくたちはいいよ。 いま コーヒーもらったから。 」
「 むう。 コーヒー、ありがたい。 」
「 そうかい。 それじゃ 吾輩は遠慮なく ・・・ 」
「 うん 大人の特製サンドイッチだからさ 」
「 ・・・ ん〜〜 美味いな。 」
「 よかった〜〜 ・・・ グレート すごいんだねえ〜〜 」
「 初演の主演はグレートか。 」
「 左様。 ― いやいや 吾輩は最低のオトコさ。 」
サンドイッチを食べつつ 老優はぽつぽつ語り始めた。
「 ― 若い時分 ・・・ ちょっとしたラッキーで人気が出て主演作が大ヒット・・・
で オレはいい気になったのさ。 」
「 ・・・ いい気に? 」
「 ああ。 舞い上がって 周囲に迷惑をかけ 恋人を捨て ― 大俳優気取り さ。
そんなヤツにいい演技などできるはずはない。
人気などたちまち去り オレは酒浸り・・・ 身を持ち崩したってわけだ 」
「 ・・・ そ うなんだ ・・・ 」
「 左様。 オレは 明日の舞台でせめてもの償いをする。 」
「 責任とる。 立派だ、グレート。 」
「 あは そんなモンじゃない。 今のオレにできることはこれだけ だからな。 」
「 応援する! 応援するよ〜〜〜 ・・・ だから 頑張って グレート! 」
「 ボーイ。 ありがとう。 単独行動で皆には申し訳ないが ・・・ 」
「 単独行動じゃないよ! いつだって仲間がいること、忘れないで。
あ・・・ それでは これで失礼いたします。 」
「 うむ。 マドモアゼル・フランソワーズに よろしく伝えてくれたまえ。 」
「 かしこまりました。 」
ジョーはお辞儀をし、制帽をかぶりなおすと夜道を帰っていった。
― ありがとう ・・・! 仲間たち!
『 倫敦の霧 』 千秋楽の上演中 ― < 戦闘 > が あった。
サイボーグ達は スーパーガンを駆使し侵害者どもの攻撃を阻止した。
「 あ〜〜 これでほぼ全滅させたね〜 」
「 へ! 上空に逃げたヤツも 全部落としたぜぇ〜〜 」
「 ふん ― これも これも的中してる。 ジョー。 特訓の甲斐があったな。 」
アルベルトは 撃ち落とした残骸を検証している。
「 え へへ ・・・ 知ってた? 」
「 ああ。 あの後 ずっと夜に訓練してただろ。 」
「 ウン。 ぼくは ― ぼくの意志で
フランを 護る。
そのために この身体にされた 今
しっかりそう信じられるんだ! 」
「 ジョー ・・・ 」
「 あ ごめん・・・ 勝手に・・・ 」
「 ううん ううん! 嬉しいわ。 わたしも決心したことがあるの。 」
「 え なに? 」
「 あの ね。 わたし … 挑戦するわ もう一回。 」
「 フラン …
」
「 ね
いつかきっと。 花束をもってわたしの楽屋に
来て!
」
「 うん! うん! きっと! 」
「 わたし 負けない。 グレートにも ジョーにも! 」
ああ フラン ・・・ きみが 眩しいよ !
ジョーは 彼女の笑顔にほれぼれ見惚れていた。
― そして 数年後。 花の巴里にて。
「 マドモアゼル〜〜〜 」
「 フランソワーズ! 」
「 フラン〜〜〜 」
オトコたちは 本日の公演の主役・オデット姫の楽屋を訪ねた。
「 ― まあ ・・・ グレート! アルベルト! ・・・ ジョー!
来てくださったのね ! 」
「 そうさ。 約束通り ― 今宵の主役に。 」
ふぁさ。 真っ赤な薔薇の花束が差し出された。
********************************* Fin. ***************************
Last updated : 05,17,2016.
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*************** ひと言 ***************
えっと ・・・ < あのシーン > を ちょいと盛り込んでみました♪
ラストの < あのシーン > ホントはジョー君 いないけど ね★